事例紹介

「JAL OODA(ジャル ウーダ)」
-OODAループによる自律的人財育成-

日本航空株式会社

人材育成・キャリア支援の考え方

人財育成-基本的な考え方

個々の社員が成長することが、組織の成長、ひいてはJALグループの持続的な成長につながります。そのためには、社員一人ひとりがエンゲージしている、すなわち「会社の目指すビジョンを理解し、共感し、その達成に向けて自律的に物事を考え、行動し、貢献していく」ことが重要です。JALグループは社員エンゲージメントの向上を目指し、人財育成に積極的な投資を行っていきます。

(出所:日本航空株式会社HP)

具体的な取り組み

「JAL OODA(ジャルウーダ)」-OODAループによる自律的人財育成-

目まぐるしい環境変化の中で、スピード感を持って一歩先をゆく価値を提供し続けるためには、一人一人が自らの責任において判断・行動することが必要です。「決められたことだけをきっちりこなす依存型の社員」から「自ら考え行動に移す自律型の社員」となること、これを「JAL OODA(ジャル ウーダ)」と名付けました。いかなる環境・条件の中においても、自らの能力を最大限に発揮して、道を切り開いていこうとする人財が集う自律型組織となり、新しい価値をお客さまに提供することで、世界で一番お客さまに選ばれ、愛される航空会社を目指していきます。

(出所:日本航空株式会社HP)

▼ OODA(ウーダ)とは

OODAとは、Observe(観察)⇒ Orient(方向付け)⇒ Decide(決定)⇒ Act(実行)とステップを進める意思決定プロセスのこと。Act(実行)の結果は、直ちに次のサイクルのObserve(観察)で自主的に評価し、O⇒O⇒D⇒A⇒O…と継続してステップを実行するループを描く。
「JAL OODA」とは「JALフィロソフィ」(*)と「部門別採算制度」を土台として自律的に考え、スピーディーに創造的に行動していくこと。

(*)「JALフィロソフィ」とは、JALグループの商品やサービスに携わる全員がもつべき意識・価値観・考え方。全員がJALフィロソフィ手帳を持ち、仕事や人生において判断に迷ったときはJALフィロソフィの考え方に立ち返り「人間として何が正しいか」で判断できるよう学びを深めている。

▼ 自ら考え、行動する「JAL OODA」人財を育成するための仕組みづくり

●リーダーから変わることを目的として2018年度に役員・管理職を対象としたJAL OODA研修をスタート
●「クロメン」(Crossing Mentor & Mentee)
組織を越えて挑戦する社員の背中を押すアイデア創出コミュニティ。部門や職種を横断してメンター1名とメンティ5名程度で1グループを形成し活動
●「W-PIT」(Wakuwaku-Platform Innovation Team)
 他社との協業を通じ、Wakuwakuでイノベーションを起こすことに自律的にチャレンジする社内ベンチャーチーム。JVP事業、サ旅事業、空弁事業 等を展開

■JVP事業…
Japan Vitalization Platformの略。「都市と地域をかきまぜる」をキーコンセプトに、従来は交わることがなかった企業・団体・個人が協働し、都市と地域をかきまぜ、新しい人流を生み出すことで日本に活力を吹き込むことを目的とする
■サ旅事業…
「サウナを日本の観光産業におけるキードライバーに。」をビジョンに掲げ、サウナ旅(サ旅)を起点にしたビジネスを展開。サウナを一つの観光資源として各地域との繋がりを育み、新たな価値創造に努める
■空弁事業…
各地の地元食材を使用した「空弁(食品開発)」を起点に共創事業を展開

OODAループ(事務局作成)
(「W-PIT」公式WEBサイト)

インタビュー

日本航空株式会社 人財戦略部人財戦略グループ長関 剛彦様にお話をお聞きしました。

※役職名・所属名はヒアリング当時(2022年9月)のもの

日本航空株式会社 人財戦略部人財戦略グループ長関 剛彦様

――どのような経緯を経て始められたのでしょうか。(実施した背景など)

2018年4月1日付の社長交代(当時の植木義晴社長が退任し、後任に赤坂祐二常務執行役員)を目前にした3月、植木から社員へ向けた社長としての最後の所感発信がありました。「2010年の経営破綻から再上場を経て、確かにいい会社になってきた自負があるが、新たな危機感を持っている」という内容で、危機感とは「指示待ち、依存型社員が多くなっているのでは」との懸念でした。そこで植木が着目したのが「OODAループ」です。アメリカを始めとする各国で採用されているOODAループは、元パイロットの植木がキャプテンとしてコックピットで常に実行していた「いつ何時でも自律的に最善の判断をスピーディーに下す」意思決定方法に合致するものでした。これをJAL流にアレンジして「JAL OODA」として導入することにし、社員全員が自律的に考えて行動する企業風土の醸成を目指す取り組みをスタートしました。

――始めるにあたり、留意したこと、社内周知も含めてご苦労されたことはありますか。

JAL OODA導入コンセプトを社内に通達した数日後に、取り組みを推進するための具体的な行動指針として3つの大きな柱を掲げました。
1.「自律型人財になる」…まず、リーダーから変わらなければなりません。最初に役員・管理職を対象にした自律型人財プログラムを実施しました。
2.「自律性を発揮する」…会社は、自律性を発揮する社員や新たなアイデアを持つ社員の自由な活動を支援します。代表的な例では「クロメン」(Crossing Mentor & Menteeの略)という仕組みを作りました。社外との協働アイデアの創出や実行につなげていく際に、プロジェクトマネジメント等の経験豊富な社員や社外ネットワークを多く持つ社員を「メンター(助言する側)」として会社が選出し、メンター1名と「メンティ(助言を受ける側)」5名程度で1グループを形成し活動する仕組みです。メンター以外のチームメンバーは公募制です。クロメンに参加することによる所属部署変更はありませんが、社内公認活動であり人事発令もしています。
3.「自律型組織を支える」…決裁権限の委譲を行う等、社内制度面を整備しました。手続き的な点とはいえ自律の醸成につながります。

――社員の反応や利用状況、また社内で起きた変化等あれば教えてください。

「おもしろいことをやっていこう」という社内の機運が着実に高まっています。「W-PIT」(Wakuwaku-Platform Innovation Team:社外との協業を通じてイノベーション創出する社内ベンチャーチーム)の取り組みに対しては、最初は「一部の尖った人の活動」といったイメージを持つ社員が多かったようですが、活動事例の増加にともない徐々に裾野が広がり参加メンバーが増えています。また、自律的に行動する風土醸成のなかでJAL OODAの枠組以外でも社員の自主性の高まりを感じることが多々あります。例えば、ワーケーションで社会・地域課題の解決に資する仕組みを試験的に導入し参加者を募ったところ、多数の社員が積極的に手をあげてくれました。自分の働き方、休み方を自律的にマネジメントしながら社会課題解決にも貢献したい、いろいろな事にチャレンジしたいと思うようになった一例だと思います。

――「ここが良い」というところを教えてください。また、これができると「もっと良い」というところがありましたら教えてください。

「ここが良い」という点は、JAL OODAの土台である「JALフィロソフィ」(JALグループの商品やサービスに携わる全員がもつべき意識・価値観・考え方)とともにJAL OODAのコンセプトも社内の各専門領域を超えて共通言語として社内に浸透してきていることです。社員同士の日常的な会話のなかにもOODA関連の話題が出ることがあるようです。
なお、JAL OODAの取り組み開始と連動したことではありませんが、部下の自律的な行動を評価するように、評価する側への研修等では繰り返し伝えています。部下が、自身が立てた目標に対して、いかに自律的に行動したか、目標の達成有無にかかわらず、目標達成に向けて主体性や当事者意識を発揮したか、その行動によりどのような知見を獲得したか、関係者をしっかりとサポートしたか、といったことを評価に反映させることで、意欲向上につなげています。

――今後の展望

社員全員が、物事やキャリア形成に自律的に取り組むという点で、まだ弱さがあると感じることは否めません。社内の意識調査を見ても、自律的なキャリア形成が課題だと感じている社員は依然として多いです。JAL OODAの取り組みを開始した2018年度をスタートと考えると、現在の進捗状況は厳しめに表現して「5合目くらい」ではと思います。自己決定できるキャリアばかりではないと承知していますし、自律性を発揮できる土壌ができても現実的な行動に踏み出すことが難しいケースもありますが、JAL OODA実践の風土のなかで社員が自律的に歩む意識を更に高めていくよう、人財育成・支援を今後も継続していきます。

プラチナキャリア構築に向けたポイント(事務局より)

自律的
学び

自ら能動的に学び、経験を通じてスキルを磨いていくキャリア形成が必要

「自律」をキーワードとする具体的な行動指針のもと、組織の垣根を越えたメンターが適切にサポートを実施し、得意分野ややりたいことの明確なイメージを持つ社員が行動しやすい仕組みを構築している。
手上げ制でメンバーを募集、徐々に参加者を増やしていく波及効果のなかで自律的に行動する風土を醸成している。

長期的
視点

単に長く働くのではなく、年齢によらず活躍し続けるキャリア形成が必要

様々なことへ自主的にチャレンジすることを通じて、自身の活躍と経験の場を広げ、長期的キャリア形成につながる取り組みとなっている。

社会課題
解決

ビジネスで社会課題解決を目指す意識を持ったキャリア形成が必要

社外との協働でイノベーションを創出する「W-PIT」の裾野が広がるなど自律的に行動する風土醸成のなかで、一人ひとりが目の前の問題・課題に気づき、解決策を探しながら次々と行動する意識と自己効力感を高めている。自律的行動によるキャリア形成を継続しながら、更に発展して地域活性化等の社会的課題解決を目指す取り組みにもつなげている。