事例紹介
「RPAやAIなどIT活用による定型業務の自動化・効率化」
「シニア候補者マッチングシステム」
ブラザー工業株式会社
人材育成・キャリア支援の考え方
人材育成の考え方
ブラザーグループでは、人材育成の基本は、職場での多様な業務経験やローテーションを中心に、主体的に自ら学ぶということだと考えています。業務経験を通じて学ぶことで、自らの具体的な経験を振り返り、そこで得られた教訓を次に活かすことで、より学びを深めて、行動の定着につなげます。また、経験の振り返りには、上司や同僚からのフィードバックが不可欠で、そのために定期的なキャリア面談やキャリア開発計画を実施することを重要視しています。
(出所:ブラザー工業株式会社HP)
具体的な取り組み
「RPAやAIなどIT活用による定型業務の自動化・効率化」
DXが世界的に加速するなかIT活用教育に積極的に取り組み、ブラザーグループ全体でより多くのRPA(Robotic Process Automation:一定のルールに基づいてロボットが事務作業を自動的に実行するツール)やAI(人工知能)を自ら活用できる人材を育てることによって、業務効率化による新しい価値創出とともに能力向上による個人の成長に貢献する取り組み。
▼ RPAの導入推進
●目標は2021年度末までに全社で70万時間削減(総業務時間の10%相当)。各部署で目標削減時間を設定し、業務棚卸の廃止・簡素化、集約化等の業務見直しを実施
●社内向け業務改革ポータルページを開設。RPA開発等に必要な情報を掲載
●上級職向けRPAリテラシーセミナー、全社員向けRPAリテラシー講習会等の開催
●ブラザー独自のBizRobo
MASTER、VBA MASTER、RPA MASTERの3つの認定制度を創設。スキルレベルに応じてBRONZE、SILVER、GOLDの認定バッジ授与(2021年度はGOLD MASTER
に30人認定し目標達成)
●2021年度末までに自動化した業務数は約400件(うち、各部門による自主開発は6割弱)
■業務効率化ツールコンテスト
業務効率化ツールの分野で、従業員が持つ知識・知恵を披露し、共有し、互いに競い合い、高め合うことを目的とし2020年度からコンテストを開催。来場者数(オンライン)は第1回の1,000人から第2回は2,000人に倍増。
■BPMN推進活動
BPMN(*)作成スキル取得推進のため、さまざまな教育コンテンツを用意。
(*)BPMN:Business Process Model and
Notation/国際標準の業務プロセス表記法で、現在の業務プロセスを可視化し業務改革のポイントを分析
▼ AI活用プロジェクト
●目標はAI人材150名育成(全社員約4,000名×3%以上)
●社員自身がプログラミングを含めてAIを使いこなすスキルを身につけ、会社の至る所でAI活用を目指す
”AI Everywhere” をビジョンとして活動開始。基本戦略として「知る、学ぶ、活用する」3つの要素を回す「AI
Everywhereサイクル」を実施
●社内のプロジェクトメンバーがボトムアップでプロジェクトを推進。大学院でAIを専攻した新入社員(2018年プロジェクト開始当時)をリーダーに抜擢し、初心者向けOFFJT(全従業員を対象にしたものから新入社員研修、マネジメント研修等各種)、ソフト開発者等のプロ向けOFFJTといった立場やニーズに合わせたカリキュラムを社内で独自に作成し、自ら講師としても登壇、運営
「シニア候補者マッチングシステム」
定年を機に新しい仕事にチャレンジしたいという希望を持つ社員への対応や人材最適配置の観点から開設。再雇用をキャリアチェンジのチャンスと捉え、社内外の求人・求職情報の登録・閲覧、マッチングの進捗を一元管理するシステム。
●50歳から閲覧可能。55歳のキャリア研修でキャリアデザインシートと就労方向性シートを作成しシステムに登録。58歳になる年からマッチング開始
●部門長とシニア候補者双方がシステム上で求人・求職情報の登録・閲覧可能
●社内、グループ会社、一般企業でカテゴリー分けし求人情報を掲載
●社内での再雇用は(1)自部門で再雇用される
(2)スカウトされ他部門で再雇用される (3)公開求人票に応募して他部門で再雇用される3つのパターン
インタビュー
ブラザー工業株式会社 人事部 近藤八朗様、ソフト技術開発部AI活用プロジェクト・マネジャー 須崎与一様、ソフト技術開発部 シニア・チーム・マネジャー鈴木幹俊様にお話しをお聞きしました。
※役職名・所属名はヒアリング当時(2022年9月)のもの
以下Q&Aのうち「RPAやAIなどIT活用による定型業務の自動化・効率化」のRPAは鈴木様、AIは須崎様、「シニア候補者マッチングシステム」は近藤様によるご説明です。
――どのような経緯を経てそれぞれの取り組みを始められたのでしょうか。(実施した背景など)
「RPAやAIなどIT活用による定型業務の自動化・効率化」(以下「IT活用による業務効率化」)は、過去の中期戦略においてグループ全体でITを活用した業務プロセス改革・効率化、その実現のための人材育成にフォーカスしており、2018年度より社長直轄の「業務効率化プロジェクト」の一環として開始しました。
「シニア候補者マッチングシステム」は定年後の再雇用先検討にあたり、最適なマッチングを実現しようと構築したシステムです。仕事の量や内容のアンマッチ等で自部門での再雇用が難しいケースや新しい仕事にチャレンジしたいという本人の希望に沿えるよう、求人・求職情報の登録・閲覧とマッチングの進捗を一元管理しています。
――始めるにあたり、留意したこと、社内周知も含めてご苦労されたことはありますか。
「IT活用による業務効率化」を進めるには、「RPAやAI活用による業務効率化といっても何から手をつけたらよいかわからない」という声に応えて、現場との協働・信頼関係構築することが成功のカギといえます。RPA活用では、社内横断的な案件への対応として、相談を受けたり社内調整をスムーズに行ったりといったサポート体制を整えました。一方で、AI活用はレベルが高いと感じている人が多いため、プロジェクト開始当初は国内外を奔走し普及活動する、いわば「仲間づくり」に苦労しました。とにかく興味を持ってもらい、興味が出てくれば「やりたい」という依頼が増えます。また、興味を持ってもらうためには事例を増やす必要もあります。活用事例を増やすには、依頼元のニーズ調査、アセスメント、AIがデータ分析するための大量かつ理想的なデータの事前収集依頼等を丁寧に行うことが重要です。
「シニア候補者マッチングシステム」には、多くの求人票を掲載せねばシニア候補者にとって有用なシステムになりません。現在でも執行役員連絡会等で求人票の掲載依頼を継続的に行っています。
――社員の反応や利用状況、また社内で起きた変化等あれば教えてください。
「IT活用による業務効率化」の取り組みにより、社内での業務効率化に対する意識が着実に高まっています。RPAでの業務効率化ツールコンテスト(オンライン)への出展者数・来場者数は第1回から1年後の第2回にはともに倍増しました。また、講習で学んだことを各部門に持ち帰り、その従業員が講師になって自主的に普及・活用推進してくれる動きも出てきています。AI活用のほうも、最近では社内専用HPの更新時には600PV(Page View:WEBページが開かれた回数)以上のアクセスがありますし、テーマを変えて毎月実施しているプログラミング研修は全社への募集メール送信から1時間で満席になる人気ぶりです。
――「ここが良い」というところを教えてください。また、これができると「もっと良い」というところがありましたら教えてください。
「IT活用による業務効率化」でこれができるともっと良いという課題は、先ほど「研修受講後、自主的に講師になり周囲に教える動きもある」という話をしましたが、今後益々そういった能動的学び、普及活動の輪が広がると業務効率化が加速し理想的だと思います。
「シニア候補者マッチングシステム」の良い点は、他の部門へ異動したいという希望の約半分が叶えられていることです。また、システム上でスカウトされればもちろん自己肯定感が高まりますし、システムを使っていろいろと検討したものの現在の部署で引き続き働くケースでも「現在の部署で必要とされていると再認識した結果の選択」であることが多く、再雇用後のモチベーション上昇につながります。
――今後の展望
「IT活用による業務効率化」では、RPAやAIを使いこなすスキルを誰もが身に着け、当たり前のように業務効率化・改善を行っている姿を目指して引き続き人材育成に力を注いでいきます。更に、開発したツールを社外にも展開してさまざまな企業が抱える社会課題の解決に貢献できたらと思います。特にAI活用は新しい技術かつ専門的で高度な知識の習得が必要なため、多くの中小企業を含む社会全般には普及が進んでいないのではと思い、弊社のノウハウや開発実績を社外にも役立ててもらおうと始動しています。
「シニア候補者マッチングシステム」は、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務になったこともあり、今後の人事制度見直し等と連動しながらシニア層の活躍支援に資する運用方針について検討を重ねていきます。
プラチナキャリア構築に向けたポイント(事務局より)
RPAやAIなどIT活用による定型業務の自動化・効率化
自律的
学び
自ら能動的に学び、経験を通じてスキルを磨いていくキャリア形成が必要
全社を挙げてRPAやAIという新しいスキルを学ぶ機運を高めるとともに、情報交換のためのHPの立ち上げやコンテストを実施し、多くの社員を巻き込んでいる。新たに学んだRPAやAIといった先端的なスキルと従来の自身のスキルを組み合わせて、業務効率化を具現化している。
シニア候補者マッチングシステム
長期的
視点
単に長く働くのではなく、年齢によらず活躍し続けるキャリア形成が必要
求人・求職情報の登録・閲覧、マッチングの進捗を一元管理するシステムを活用し、定年後も今までのキャリアを活かしながら、社内外で活躍し続けるための事前準備を可能にしている。
自律的
学び
自ら能動的に学び、経験を通じてスキルを磨いていくキャリア形成が必要
「再雇用をキャリアチェンジのチャンスと捉える」という運用コンセプトのもと、それまでの社内ポストに依存しすぎない働き方の検討を促し、新たな挑戦のために学び直しが必要という気づきの機会を提供している。